2015-12-03

ナイトメアランドという世界

ナイトメアランドの世界観設定のご紹介です。重大なネタバレを含んでいますのでクリアされてから読むことをお勧めします。


早速ですが、ナイトメアランドはある書物をモチーフにしています。

ところどころで作品の影が見え隠れしますが、あくまで世界観設定の話なので劇中では言及されていません。


その書物とは


『神曲』


イタリアの詩人、ダンテ・アリギエーリによる叙事詩です。地獄篇、煉獄篇、天国篇の三部で構成されており、もっとも印象的なのは地獄篇ではないでしょうか。

暗い森に迷い込んでしまったダンテは古代の詩人ウェルギリウスと出会います。そして彼の案内で地獄、煉獄を巡り、のちに出会うベアトリーチェの案内で天国を旅します。

ナイトメアランドはその地獄篇の部分をモチーフにしました。(あくまでモチーフですので神曲そのままの世界ではないです)


『神曲』での地獄は 9 つの圏に分かれており、おかした罪により堕とされる場所が違います。
ダンテはさまざまな責苦を受ける亡者を目の当りにしながらすべての圏を巡っていくのです。

ナイトメアランドも 9 つのアトラクションがあり、それぞれを地獄の圏に相当させました。

エントランス

トワは門をくぐったところで倒れてしまいます。ここから先が地獄(亡者の世界)であるからです。


エントランスの門は「地獄の門」をイメージしました。『神曲』の地獄の門にはこう刻まれています。

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'
この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ


これが地面に書かれていた欠けた文字の全文(イタリア語)です。

ちなみに、有名なロダンの彫刻「考える人」はこの門の一部分です。地獄の門は実在するんですね。日本でも観ることができますよ。

バイキング

第一圏の名称は【LIMBO】。
忘却という意味もあり、【辺獄】という名称そのものでもあります。

地獄のなかですが、罪人の堕ちる地獄圏ではなくその手前部分に当たります。
ここでは、善も悪もなさなかった者が責苦はないものの永遠の時を過ごしています。


辺獄と地獄圏のあいだにはアケローン川が流れており、冥府の渡し守カロンが亡者を舟にのせて地獄へと送ります。


バイキングにいた渡し守はカロンであり、バイキング自体もカロンの舟でした。


アケローン川を渡るには渡し賃が必要です。ナイトメアランドにおいても金貨を持っているとカロンが通してくれましたね。

その先には冥府の裁判官ミーノス(ミノス王)がおり、亡者の行くべき地獄圏を割り当てるそうです。


ナイトメアランドでは、さかさまの王様として登場します。裁判官のようなことは行わないものの論理パズルを出してきます。

エンディングとしての【LIMBO】は、すべてを忘れてしまうイメージにしました。

ミラーハウス

第二圏の名称は【LUST】。
意味は色情や愛欲ですが、もうすこし柔らかく【快楽】としました。

ここでは、愛欲におぼれた者が荒れくるう風に吹き流されているといいます。


ミラーハウスに登場するお嬢様は自分への愛欲にあふれています。鏡に囲まれ、いつでも自分の姿を見られることに快感を覚えていたのかもしれません。

エンディングとしての【LUST】は、恐ろしい快楽への誘いをイメージしました。

コーヒーカップ

第三圏の名称は【GLUTTONY】。
意味は【貪食】です。

ここでは、大食の罪をおかした者がケルベロスに引き裂かれているといいます。


大きなケーキや食器は大食を、3 匹の犬に首輪をつけるのは 3 つ首のケルベロスをイメージしました。ケルベロスは甘いお菓子が好物なようですよ。

また『神曲』では、この第三圏に冥府の神プルートも出てきます。


ギリシア神話のハデスにあたりますが、ケルベロスを従えているといわれます。姿の見えないご主人様とはハデスのことですね。

エンディングとしての【GLUTTONY】は、怪物たちに食べられてしまうイメージにしました。

観覧車

第四圏の名称は【GREED】。
意味は【強欲】です。

ここでは、ケチな者と浪費の過ぎた者が重い金貨の入った袋を転がして罵りあっているといいます。


『神曲』の要素をアトラクションに反映しているところはほぼありませんが、金貨の袋を転がしている様子がゴンドラのまわるイメージに近いと思いました。

エンディングとしての【GREED】は、みずからの欲望を叶えるために動いていたものの、それを断ち切ったイメージにしました。

海底探検

第五圏の名称は【ANGER】。
意味は【憤怒】です。

ここでは、怒りに我を忘れた者たちが血の沼で傷つけあうといいます

ここもアトラクションに反映しているところは少なく、海と沼で水つながりといったところでしょうか。

『神曲』では先の第七圏にハーピーという半人半鳥の魔物が出てきます。
このハーピー、しばしば似た容姿をもつセイレーンと混同されます。セイレーンももとは半人半鳥の姿だったそうです。


音の謎解き&水のあるアトラクションということで、歌のうまい人魚であるセイレーンに無理やりご登場いただいたのでした。

『オデュッセイア』という別の叙事詩においてはセイレーンが歌声で魅了してくるくだりがあります。


しかし、竪琴を鳴らして歌声をかき消したというエピソードがあることから、ナイトメアランドではセイレーンの歌に惑わされなくなる「小さな竪琴」というアイテムを入れてみました。

エンディングとしての【ANGER】は、静かなる怒りといったところでしょうか。

メリーゴーランド

第六圏の名称は【HERECY】。
意味は【異端】です。

ここでは、異端者が墓穴で焼かれているといいます。

『神曲』においてはケンタウロスと出会うところです。馬のイメージからメリーゴーランドを舞台にしました。


また、メリーゴーランドにはチェスのような謎解きもあります。実際のチェスでもナイトの駒は馬ですよね。


メリーゴーランドのナイトはそのまま騎士の姿をしていますが、最期は馬の姿に…!
ある意味【異端】であるかもしれません。

エンディングとしての【HERECY】は、アリンがトワとは異なる存在であることに気付くイメージにしました。

ホラーハウス

第七圏の名称は【VIOLENCE】。
意味は【暴力】です。

ここでは、暴力をふるった者が煮えたぎる血の河につけられたり、火の雨に焼かれたりしているそうです。

『神曲』の第七圏以降は、中でまた複数のエリアに分かれています。様々な場面があるためアトラクションへの反映はほとんどされていません。

ここへ堕とされる者は自己に対する暴力も当てはまるといいます。


エンディングとしての【VIOLENCE】はそのイメージになります。

ジェットコースター

第八圏の名称は【FLAUD】。
意味は【悪意】です。

ここでは、悪意をもって罪をおかした者が 10 個のエリアに振り分けられ責苦を受けるといいます。

ホラーハウス同様、『神曲』では複数のエリアに分かれている圏なので引用しているところはありません。

じつは、遊園地にジェットコースターが無いのもなぁ…という理由だけだったりします。


エンディングとしての【FLAUD】は、隠されていた悪意が明らかになるイメージにしました。

ナイトメアキャッスル

第九圏の名称は【TRAITOR】。
意味は【裏切者】です。

地獄の最下層であり、もっとも重い罪である裏切をおかした者が堕とされるといいます。

コキュートスとも呼ばれる氷漬けの地獄です。この手前には、かつて神に刃向った巨人が封じられています。


壁からのぞいたアイツですね。さすがにトワとアリンでは駆逐できません。


本棚の部屋では 9 つの落書きを見つけられます。それぞれが地獄であることを暗示するものでした。


さて、『神曲』における第九圏は 4 つの円に区切られているそうです。

第一の円は「CAINA カイーナ」
第二の円は「ANTENORA アンテノーラ」
第三の円は「PTOLOMEA トロメーア」
第四の円は「JUDECCA ジュデッカ」


これらの名称は「罪人の像」によって開くパネルに刻まれています。その文字を組み合わせることで、もうひとつの名前が現れたはずです。


神に反逆した堕天使のなれの果て。すべての悪魔の王ともいわれる存在。

クイーンの正体。それは…


魔王サタン

『神曲』では、堕天使の名称ではなくサタンとして登場します。巨大な身体は氷に封じられ、恐ろしい 3 つの顔が罪人を喰らっています。

荒々しいイメージのあるサタンですが、ナイトメアランドでは優美なようで禍々しく狂っている存在に描いてみました。


クイーンはわざわざ各アトラクションをまわらせて、地獄が抱えるすべての悪(LIMBO を除いた 8 つの悪)をトワに植えつけようとしました。


そして生きながらにして一切の希望を捨てさった人間。「絶望」という名の最高の食材に仕上げてから喰らおうとしていたのです。

エンディングとしての【TRAITOR】は、裏切そのものです。


そんなクイーンの最期は…。
欲望にまみれた食の追及。まさに最悪の美食家といえるでしょう。


というわけで、ナイトメアランドの世界観設定でした。


最後の謎ともいえる「ナイトメアランドとはなんなのか?」は、『地獄』ということになります。

入口の銘文に気付かれた方はいらっしゃいましたね。
また「モチーフはダンテの神曲」と明言されていた方をおひとり見かけまして、思わず社内で声を上げてしまうほど感心いたしました。

原作の『神曲』はなかなか難しい本ですが、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。